美容室のDXはこう進める!LINE・AI活用で働き方と顧客体験を変える

湘南で21年間美容師をしているumiさん。現在は週3回の時短勤務をする一方で、店舗のDX推進や個人事業主としても活動しています。勤め先の美容院では、LINE構築やAIを用いた口コミへの返信自動化、オンライン動画によるスタッフへの勉強会開催など、スタッフの負担軽減とお客様とのエンゲージメント向上のためにさまざまな取り組みをされています。今回は、神奈川で13店舗を展開中の美容院のDXを推進しているumiさんに、DX前後の変化や今後の施策などを伺いました。

目次

――まず最初に、umiさんがお勤めの美容院では、どのような背景があってDXに取り組むようになったのか教えていただけますか?

現在の社長は「日本一福利厚生の良い美容院にする」ことを掲げていて、そのスローガンのもと、スタッフの負担を減らして時間単価を上げるためにDXに取り組んでいます。

「スタッフ全員が稼げるようにする」ための仕組みづくりも、DXに取り組むことによって実現させようとしています。勤めている美容院では歩合制を採用しており、売上を上げればその分だけ収入も増えます。しかし、新規来店のお客様を担当すれば一定の収入は得られますが、リピートしていただけなければそれ以上の収入アップにはつながらず、離職の原因にもなりかねません。そこで、お客様とスタッフ双方のエンゲージメントを高め、安定的にリピートしていただける体制の構築に取り組んでいます。

また、今でこそスタッフの就業時間は9時〜18時ですが、以前は朝7時にカットの練習に来て、21時までお店にいることが普通でした。その時間帯はずっと電話予約の受付などの業務していたので、スタッフの負担は大きく、私の先輩の中には体調を悪くする人もいました。そこで、私個人としては自分がロールモデルになって、もっと働きやすい職場環境にして、後輩の負担や離職率を下げようと考えてDXに取り組んでいます。

――umiさんは美容院のDXに、いつから関わっているのでしょうか?DXに取り組む以前にあった業務フローについても教えてください。

わたしは、以前にいた店舗と今いる店舗のそれぞれオープニングから、DXに関わっています。

20年前に私が入社したころはPCを使えるスタッフが少なく、予約表は手書き、備品の受発注はファックスを利用していて、それぞれの作業にとても時間がかかっていました。それから2年経ち、お客様の新規流入の主軸が美容系予約サイトになってからは手書きの予約表は廃止。

今ではソフトウェアを導入して、複数の予約サイトを一括で管理できるようになっています。コロナ禍に入ってからは、さらにDXの取り組みが加速しました。

――コロナ禍に入ってからは、始めにどのようなDXに取り組んだのでしょうか?

お客様が施術中に読むための紙面の雑誌を廃止して、お客様ご自身のスマートフォンから、WEB上で雑誌を読んでいただけるようにしました。お客様自身が触った雑誌を、他のお客様が再利用することに対して、気にする人が多かったためです。WEB雑誌のコスト自体は利用店舗数によって決まっていて、そんなに高額ではありません。

――「電話予約の比率を1割程度に下げた」と事前にお聞きしました。どのようにして、電話予約の比率を下げて、電話対応の時間を削減したのでしょうか?

ネット予約の活用だけではなく、早割を導入することで、電話予約を最小限にすることができました。早割とは、施術後のお会計時に、次の早割期間内の予約も取るといった仕組みです。

予約変更やお問い合わせについては、LINEで受付できるようにしています。お客様とやり取りするためのLINEアカウントは二つあります。一つ目は会社から発行している、スタッフごとのアカウントです。お客様は担当スタッフと直接LINEでやり取りいただき、予約受付から施術までそのスタッフが対応します。二つ目は店舗の公式アカウント。店舗の休店日などをお客様に一斉告知したりします。

また、LINEと電話の両方とも、9時〜18時の営業時間内のみの予約受付としています。営業時間外にお客様からLINEに連絡いただいたときには、「営業時間中に返信させていただきます」と自動応答されるようになっています。翌営業時間中には必ず返信するので、お客様からの不満はありません。50代〜80代のシニア世代のお客様からも、基本的にはLINEでご予約いただけています。ただ、スマホの取り扱いに慣れていない一部のお客様からは、営業時間中に電話でご予約いただいています。

店舗のLINEアカウントからは、お客様からアンケートで回答いただいた要望などに対して、対応したらすぐにお知らせするようにしています。例えば、飲み物の種類やブランケットの数を増やしたり、新しいシャンプーの香りを取り入れたりなどをします。こうした取り組みによって、お客様に喜んでいただき、エンゲージメントを高めているのです。

――遠隔でコミュニケーションを取りながらも、お客様の要望に合わせた対応ができているのですね。DXを進めることで、売上やお客様の満足度などに変化はありましたか?

お客様の数は減ることなく、売上は右肩上がりになっています。当美容院では、5回以上リピートいただける既存再来は全体の8割以上、初回から2回目の新規再来は5割程度と、比較的高い水準を維持しています。

当美容院では、1年に1店舗の頻度で新店舗をオープンしているので、お客様の人数を増やすこと自体はできています。しかし、新規来店から数えて3,4回目くらいからの来店率は、美容院の業界全体の傾向と同じく低くなりがちです。その3,4回目での離脱率を下げることも大切なので、なんとかシステム化して解決しようと、工夫を凝らしている最中です。

――新人スタッフへの教育の観点では、DXとしてどのような取り組みをされましたか?

これまでは日曜日の夜に、地域ごとに新人スタッフを一つの店舗に集めて、カットなどの勉強会を開催していました。しかし、今では直接集まらずにYouTube中継に切り替えています。新人スタッフは移動せずに、勤めている店舗にいながら勉強会に参加できるようになりました。録画もしているので、いつでも動画を見返して勉強することができます。

また、以前は、入店1〜2年目のスタッフは朝早くからお店に来てカットの練習をしていました。しかし、DXを推進して電話予約を減らし、ヘルプとして呼び出す機会も少なくなったことで、今では営業時間中の9〜10時に練習できるようになり、スタッフの負担を軽減できています。

――美容系サイトや、MEOの観点でGoogleマップへの口コミに対しても、何かしらの工夫をされているのでしょうか?

美容系サイトやGoogleマップへの口コミに対しては、手軽に返信できるように、まず返信内容の冒頭前半は定型文にしています。後半部分は、スタッフが考えた文章をGPTs(カスタマイズした生成AI)でリライトし、お客様に喜ばれて、かつMEOとしても効果的な内容になるようにしています。

――DXしている目的である「現場の手間を減らしつつ、お客様とのつながりを深める」のために、現在の仕組みに対して改善を考えているポイントはありますか?

そうですね。LINE構築の一環としてLINEのL Message(顧客管理・自動配信ツール)を利用していますが、お客様から忘れられないようにするためのシナリオ配信の調整が、一つの改善ポイントだと思っています。

今後は、お客様を施術内容や来店頻度である程度カテゴライズして、カテゴリーごとに送るメッセージの内容を調整していく予定です。例えば、ブリーチしているお客様であれば、1カ月に1回はブリーチしたほうがお得になるように、「1カ月以内のお直しは、通常料金から40%オフ」などのメッセージを送れるようにしたいと考えています。

――今後のDXの取組みとして、実施を予定していることや、検討していることを教えてください。

実施が決まっていることとしては、施術前後のお客様の頭部写真を毎回撮って、前回までの施術やカラーなどの情報を、お店側とお客様の双方がLINE上でいつでも確認できるようにします。そうすることで、スタッフの記憶や口頭でのやり取りだけに頼らずに、前回までの実際の写真を参考にしながら施術できるようになります。

また、今後の取り組みとして、AIを活用し、LINE上で骨格診断やパーソナルカラー診断ができる仕組みを導入したいと考えています。お客様の中には、季節に合わせて定期的にヘアカラーを変える人や、「自分に似合うヘアスタイルがわからない」と悩まれる人もいます。施術前にお客様が理想のスタイルをイメージし、それを具体的にスタッフへ伝えられれば、ヒアリングや施術が楽になり、満足度向上にもつながると考えています。

毎回同じヘアスタイルにしているお客様が、他にも似合うヘアスタイルを知って、「変えてみよう」と考えるきっかけにもなると思います。例えば、特定のカラーや白髪染めだけしてるお客様には、「ハイライトを入れてみたい」と検討いただけることもあると思います。実際に似合うかどうかは、施術前にスタッフから伝えることができます。

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