「人がいきいきと働ける職場を増やしたい」――採用・組織開発、キャリア支援を通して見出した人事のあり方

10年間にわたりIT企業の人事として、給与・勤怠管理から人事評価、採用、新卒研修、異動まで幅広く担当してきた、だてこさん。

現在は人事系SaaSを活用した組織開発コンサルタントとして、エンゲージメントデータを基に企業の組織課題を可視化し、改善へ導いています。副業では、中小企業向けの採用コンサルタントや転職希望者へのキャリアコーチングも実施。

人事領域で幅広い経験を積んできただてこさんに、採用におけるPDCAの回し方や、人事担当として価値を最大化するための取り組みについて、伺いました。

目次

――まずは、これまでのご経歴を教えてください。

前職ではメディア運営やEコマース事業をしているIT企業で、人事を約10年担当しました。私が入社した頃から社員数はだんだんと増えて、退職する頃には1万人規模の会社になりました。10年の人事経験の中で、最初は給与・勤怠管理を担当。

次に、社内の複数の事業部に対して、人事評価や採用、組織変更に伴う異動時の対応などの一連の人事業務を、執行役員と壁打ちしながら任されるようになりました。主にエンジニアに対しての人事に関わることが多かったですね。新卒100名に対しての研修プログラムや、組織開発にも携わりました。

現職では、人事系SaaSを展開している企業で、社員エンゲージメント調査システムを基軸にした組織開発コンサルタントをしています。調査対象者の決定や質問内容の設計といった戦略面だけでなく、例えば「会社への貢献意欲」「ロイヤリティの有無」などの調査結果を分析したうえで、課題点の共有や施策提案まで実施します。

現職と並行して、副業で採用コンサルタントや転職サポートもしています。採用コンサルタントは中小企業向けに、採用に関するあらゆる課題に対して支援。転職サポートでは、転職希望の人向けにキャリアコーチングをしています。

――前職・副業で携わっている採用について伺います。採用活動では「このような人が欲しい」という理想像と、実際の採用現場で出会う候補者との間には、ギャップが生まれがちです。これまでどのようなギャップを感じ、そのギャップを埋めるために、人事としてどのような工夫をされてきましたか?

とてもよく起こることだと思います。人を必要としている現場側からは、”理想の詰め合わせパック”のように非現実的な募集条件を提示してくることが多いです。しかし、例えばエンジニアの転職市場を見ると、競合企業の年収水準はとても高く、理想を求めるだけでは求職者はなかなか集まりません。

そこで、まずは希望条件の優先順位をしっかりと決めていました。前職では、学習意欲・マインドといったポテンシャルの部分を大事にしつつ、育成前提で採用するように現場側へはすり合わせていましたね。

また、候補者側に対しても、例えば若手ホープ社員のインタビュー記事を採用ページなどに掲載するなど、入社後の働き方や社内で大切にしている価値観などが、事前に伝わるように工夫していました。

――採用ブランディングや採用広報について伺います。広報・マーケティング部門も関わる領域ですが、これらを進めるうえで、人事としてはどのような役割を担うべきとお考えでしょうか?

人事は、人を必要としている社内の事業部と、採用市場の双方を、中立的な立場で見ています。双方を客観視しつつ比較することで、他社との差別化ポイントや自社・事業部の魅力を見つけ出すことができます。それらの情報を、広報や面接時の求職者へのメッセージとして言語化することが、”人事だからこそ提供できる価値”だと考えています。

求職者がメッセージをどのように受け取ったかは、面接時に「なぜ応募してくれたのですか?」「何が決め手で入社してくれたのですか?」と直接聞くのが効果的です。

面接時には、目の前の候補者が重視しているポイントに合わせて、準備していたメッセージを伝えるようにしていました。前職のエンジニア採用では、”エンジニアが自分でサービスを改善していく風土がある”や、”勉強会などがあって、主体的に学んでいける環境がある”といったカルチャーや制度についてのメッセージが、候補者には刺さりやすかったですね。

また、選考中の競合企業名も聞いて、比較対象としてターゲティング。自社との環境・風土の違いを言語化するようにも心がけていました。言語化すると、今働いている社員に対しても、客観的な自社・事業部の魅力を伝えられるというメリットもあります。

働いている社員からも、実際に働いて良かったポイントや、入社後にギャップを感じたポイントなどを聞きます。これらの情報から、さらに広報や面接時のメッセージ性を改善していく、というPDCAを回しています。

――求職者が入社した後、定着化してもらうために、どのような取り組みをしていましたか?

内定を出すタイミングには、配属部署やメンターとなる先輩社員、入社後のスケジュール感・ミッションなど、入社後のイメージをしっかりとすり合わせるようにしていました。内定者が中長期的な視点を描けるように、働くことによる将来への可能性や道筋などを話し合うことも大切にしていますね。

また、前提として、入社後のオンボーディング期間中の教育体系を、しっかり設計することも大切です。

――人事を担当するうえで、どのようなスキルやマインドを持っておくといいのか、人事や採用・組織開発コンサルタント、転職支援の経験があるだてこさんの視点から、教えてください。

今は人事領域においても、時代による変化が激しいです。そこで、一つの会社だけで経験を積むことも必要ですが、経験の幅を広げることが重要です。特に今は、一つの会社内でマニュアル化された人事オペレーションは、AIに置き換わっていく傾向があります。

私の場合は、前職で10年間の人事を経験後、転職して組織開発コンサルタント、副業では採用コンサルタント・転職支援コーチングと、活動の幅を広げてきました。そうすることで、例えば企業規模や業界による人事制度の違いなどについての視野が広がりました。副業で培った経験が、本業での価値提供の幅を大きくしているようにも感じています。

このように、多方面で経験を積むことで、今すぐに価値は出せないかもしれませんが、長期的には自分の市場価値を高める要素に必ずなると考えています。

――現職の組織開発コンサルタントの業務内容や、顧客はどのような課題を抱えていることが多いのか、教えてください。

業務内容としては、顧客の人事戦略に合わせて、調査したエンゲージメントデータを武器に企業の組織課題を分析・可視化し、組織課題の特定と改善を支援しています。

組織改善の第一歩として、”現状を可視化”する必要があります。エンゲージメント調査システムを利用すれば、組織をマネジメントする人たちが、「組織が今どのような状態なのか」を客観的・定量的に把握できます。逆に、これらの情報がないと、社員とのコミュニケーションによる定性的な情報しかキャッチできません。

現状を知ったら、次に、現状と理想のギャップや組織の強み・弱みを明確にして、原因を仮定して施策を打つ、というようにPDCAに回していきます。

日本の人口は今後も減少傾向で、働き手の確保はますます難しくなります。そこで、会社としては社員に対して、”長期間に渡ってパフォーマンス高く働いてほしい”という希望があります。しかし、実際には転職が活発になり、年々離職は増えていく傾向にあります。そこで、社員のエンゲージメントをしっかりと測って、PDCAを回していく、といった”人的資本経営”の意向があって導入いただくケースが多いです。

また、採用・勤怠・人事評価・給与計算などの各分野ごとに、別々のシステムを利用していて、データ収集はできるものの分析はしづらい状態になっている会社もあります。そこで一気通貫で運用・管理できる人事系SaaSを導入し、それぞれの分野のデータを統合しつつ分析。すると例えば、パフォーマンスの高い社員のこれまでの成長プロセスを洗い出して、再現性のある育成ができるようになります。

人事系SaaSを導入してデータ分析することで、さまざまな再現性や各人事プロセスの連動性を高め、効果的な人事戦略を作ることもできます。

――副業の採用コンサルタントでは、具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか?

基本的には、採用で困っていることに対して、「何でもやります」というスタンスで支援しています。採用活動の経験がない会社であれば、例えばWantedly(採用プラットフォーム)の構築や社員インタビューをします。選考プロセスの設計や選考基準を経営層と一緒に考えたり、面接官として面接にも参加します。

――採用コンサルタントや転職支援コーチングでは今後、どのような価値を提供していきたいとお考えでしょうか?

人事領域に長く携わる中で、”本来は素晴らしいのに、世の中にあまり知られていない会社”が数多くあることを実感しています。一方で、「今の会社は合わない」「自分の力をもっと発揮できる環境を探したい」と考えている働き手も少なくありません。

こうした双方のギャップを埋めるために、魅力ある企業の認知を高める採用支援と、「もっと頑張りたい」と考えている働き手が、自分に合った職場に出会う支援をするキャリアコーチングの両軸で、今後も活動していきます。

私自身、「働き手はもっと流動していい」と考えているんですよ。企業の魅力が正しく伝わり、転職者が自信を持って積極的に転職活動をすれば、「ぜひ来てほしい」と言われるようなマッチングは、もっと増やせるはずだと思っています。

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