「着物は特別な日のもの」——その思い込みを外し、普段の外出にさらりと羽織れる技を教えるのが着付け講師 三橋 誌野氏です。
美容師時代に磨いた観察力を活かし、体型に合わせて補正するコツや着崩れしにくい基礎を、少人数またはマンツーマンで丁寧に指導。対面に加え、Zoom を利用したオンライン講座も開催しているため、忙しい人や遠方の人でも自分のペースで学べます。
着物姿で「ちょっと出かけてみよう」と感じられる自信とワクワクを、三橋氏と一緒に手に入れてみませんか。
美容師としてキャリアをスタート
ーーまずは自己紹介をお願いします。これまでのご経験や、現在の取り組んでいることについても簡単に教えていただけますか。
美容師になりたくて、高校卒業後はすぐに美容院に就職しました。美容師になるために、通常であれば専門学校に2年通ってから就職します。しかし、同じ時間を過ごすのであれば、すぐに働いて現場経験を積んだほうが、2年後に新卒で就職するよりも早く仕事ができるようになっていると考えたのです。美容免許は働きつつ、通信制で取得しました。
友人からはよく「変わっている」と言われますが(笑)
その後「イギリスに行こう!」と思い立ち、必死に働いてお金を貯めて、22歳の秋から約3カ月イギリスに滞在しました。帰国後は、以前に働いていた美容院の店長からのお誘いもあり、美容師として再就職。それから3年後、結婚して美容師を辞めて専業主婦になりました。
今は主婦をしながら、着物や浴衣の着付け講師、ハンドメイド作品の販売をしています。

ーー着付け講師の視点から、着物は洋服と比べて、どのような良さがあるとお考えでしょうか。
着物はまず、絹や化学繊維などの素材にもよりますが、開いている袖口と首元を覆ってしまえば、冬場に着るととても暖かいです。夏も生地によっては風が通って、見た目に反して涼しいです。姿勢も良くなります。
洋服と同じ感覚で、「帯締め(帯の真ん中の紐)」や「帯留め(帯締めに通す飾り)」の種類や色を変えて、コーディネートも楽しめます。帯留めはボタンのような飾りで、食べ物や動物など、いろんなデザインがあります。
また、洋服の場合は、ガラが多いとごちゃごちゃして見えやすいです。しかし、着物は、着物・帯・帯どめなどにデザインがあってカラフルでも、調和して違和感が出ないので、好みのガラが入ってるものを選んで着られるという楽しさがありますね。
体型によって着付けのやり方は工夫する
ーー着物の着付け講師になるために、いつごろから着付けを勉強されたのでしょうか。
着付けに興味を持ったのは、専業主婦になる前、美容師をしていたときです。最初に働いていた美容院では着付けもしていて、手伝いをする機会がありました。普段の着付けだけでなく、結婚式や成人式での依頼も多かったです。着付けの様子を見て「かっこいいな」と思い、その後は本を読んで着付けを独学して、自分で着れるくらいにはなっていました。
その後、自分の時間が取れるようになってきたタイミングでしっかりと習い始めて、今では着付け講師ができるまでになりました。

ーー着付け師として、着付けを一人前にできるようになるまでに、かかる時間を教えてください。
数をこなして自信をつける必要があるので、2年はかかると思います。マネキンに着せて先生が「いいね」と言ってくれても、いざ実際の人に対して着付けをすると、人それぞれ体形が違うので難しさがあります。
痩せてる人には、肌着の時点で着崩れやシワを防ぐためにタオルを入れて、寸胴にする必要があります。普通の洋服はウエストを細くしてくびれを出すほうがいいですが、着物の場合はタオルを入れてドラム缶のように寸胴にしないと、くぼんでいる箇所に紐が寄ってシワになってしまうのです。ふくよかな人の場合は、逆にシュッと締まって見えるように工夫します。
男性の場合は、ガウンのように羽織って腰紐と帯を結ぶだけで完了です。身長に合った丈の着物を使うので、女性のように長い裾をたくし上げる必要もありません。
着物は「普段着」にできる
ーー着付け講師をしていて、特に楽しかったエピソードや印象に残っていることを教えてください。
以前、まだ3歳の娘さんが、七五三で着物を着るのを、すごく楽しみにして来てくれました。着せたときも、とてもうれしそうで、お母さんも一緒に着物を着て、写真撮影してから七五三の参拝に出かけられました。
戻ってきてお母さんは着物を脱いだのですが、娘さんは脱ぎたくなくて、着たまま帰られたんです。「おじいちゃんに見せに行くんだ」とうれしそうに言っていました。小さいお子さんは普通、あばれたりして着崩れするのに、そんなこともなく、よほどうれしかったんだなと思います。あんなに喜んでもらえたのは、私としてもうれしかったですね。
着物は洋服よりも気にする点が多く、「しっかりと着ないといけない」と、着物を着ることに敷居の高さを皆さんは感じていると思います。その中で、教室に何回も通って自信がついて、「カフェに行けた」「神社に行けた」という報告を聞くのもうれしいです。

ーー反対に、着付け師では、どのようなことが苦労するポイントですか。
成人式の時期はとくに、予約がたくさん入るので頭がいっぱいになります。成人式のための女性への着付けでは、美容室側でヘアメイク30分・着付け30分の合計1時間の枠が設けられています。その30分の枠で着付けを完成させる必要があるのでたいへんです。
浴衣の場合は、浴衣を1枚着て帯を締めれば終わりですが、振袖の場合は肌着をつけて補正して、次に長襦袢と着物の2枚を着せなければいけません。さらに、帯も考えながら結んで飾る必要があります。帯を結ぶのが難しいだけではなく、指の力を使うので、力仕事でもあります。
また、最初から丁寧に着付けしないと、たとえば最初に寄っていたシワが目立ってくるなど、着崩れてしまいます。

ーー現代では着物を着る場面が限られていると思うのですが、そのあたりはどのようにお考えですか。
実はそう感じるだけで、たとえば友人とランチするときなど、ジーンズをはくような感覚で、普段から着て出かけてもいいと思います。絹の着物だと、汚したらクリーニングに出さないといけませんが、化学繊維や綿、デニム生地の着物は家でジャブジャブ洗えるので、そういうものから始めたらいいと思います。
ハンドメイド出品・オンライン着付け教室も展開
ーー着付けだけではなく、ハンドメイド作品の制作や販売もされていると思います。ハンドメイドを始めたきっかけや、活動をとおして得た学びを教えてください。
編み物に出会ったのは小学校のころで、祖母にマフラーの編み方を教えてもらっていました。しかし、当時は、5センチ編んだだけで飽きてしまっていました(笑)
その後、大人になってからテレビでおしゃれなセーターを編んでる映像を観て、マフラーを完成させたこともないのに、近所のコミュニティセンターで教えてもらいながら、セーター作りにチャレンジしました(笑)
編んでる途中は仕上がっていく過程が楽しいですし、完成したものを着れるのも楽しいですね。
その後、作ったものが売れることに気付き、2023年から販売を始めました。今まで作ってきたのは主に布製品で、子供用の手提げ袋や浴衣などです。ただ、縫い終わった糸の処理に手間がかかるため、編み物のハンドメイド作品を販売するようになりました。

ハンドメイドの販売を始めてからわかったのですが、市販の編み物の製図は商用利用できません。目数を変えたり、色や模様を少し変えたりするくらいではダメで、大々的に異なる形にする必要があります。そこで、自分なりにアレンジしつつ、今では、ヘアターバンやハンドウォーマーなどを作って販売しています。
ーー着付け教室やハンドメイドをすることで、顧客にはどのような状態になってほしいとお考えでしょうか。今後提供していきたいサービスについても教えていただけますか。
一般的なイメージよりも、着物を着ることはぜんぜん敷居が高くないので、どんどん着てほしいと思います。着物を着て、お友達と出かけて笑顔で帰ってきたり、私のハンドメイド作品を身につけて「暖かいな」「かわいいな」という声が聞けるとうれしいです。
今はZoomを利用した着付け教室もしています。道具さえそろっていれば、場所も時間も選ばないこともあり、これからも続けていきます。
また、英語を話せるので、今後は英語力とZoomを駆使して、たとえば海外の人向けへのオンラインの着付け教室もできればと考えています。

三橋 誌野氏 ハンドメイドサイト
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