クリニックのIT周り全般をサポートする「医療DXコンサルティング株式会社」。オンライン資格確認システムやクラウド型電子カルテの導入といった対応はもちろんのこと、メーカーと親和性のある機器選定やシステム間のデータ連携など、現場が使いやすい環境づくりを徹底的に支援しています。
さらに、集患支援や補助金の活用などにも踏み込み、「少人数でも無理なく回るクリニック」を実現。今回は、医療DXコンサルティング 代表取締役 勝田 智之氏へのインタビューをとおして、現場目線に徹した医療DX支援の実践と、その根底にある価値観に迫ります。
「IT周りの困りごとは、何でも相談に乗りたい」

ーーまず、会社の設立背景や、医療DXコンサルティングを始めるきっかけを教えてください。
もともと電子カルテの営業をしていたのですが、クリニックの新規開業の手伝いを友人から依頼してもらったことをきっかけに、思い切って退社して「医療DXコンサルティング株式会社」を立ち上げました。今は前職の経験を生かして、クリニックが利用するIT機器周りのコンサルティングをしています。
ーー医療DXコンサルティングとは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?
簡単にいうと、「クリニックのIT関係で困ったことがあったら、何でも依頼ください」というスタンスで仕事をしています。一番引き合いが多いのが、マイナンバーカードを保険証代わりにできる「オンライン資格確認システム」の導入と設定です。IT機器の手配だけでなく、システムを動かすために必要なアプリのインストールや設定まで、一貫して対応します。
これらの設定は複雑で、一般の人が機器を購入しても、すぐにシステムを使えるわけではありません。厚労省が定めた、ビジネス書一冊分くらいにも及ぶ複雑なPC・ネットワークの設定項目を、決められたとおりに構築する必要があるのです。そのような専門的な対応をできることが、当社の一番の強みです。
加えて、クリニックの事務側で使用する「レセコン(医療系会計システム)」を他のシステムに連携させると、さらに便利になるので、その作業もしています。それ以外でも、クリニックのITに関するどのような相談にも乗っています。たとえば、補助金が出る最新の対象項目や、補助金の申請が通りやすくなるための書類の作り方もお伝えしています。
「クラウド型」の複雑な設定をサポート

ーーマイナンバー関連以外にも、顧客からの相談が多い仕事はあるのでしょうか?
「電子カルテ」関連の相談が多いです。電子カルテは診察室で使うシステムで、事務や受付で使うレセコンとは役割が異なります。最近では、この2つが一体化されたシステムも増えてきました。
従来は、物理サーバーを院内に設置する「院内サーバー型」が主流でしたが、初期費用が数百万円かかることもあり、今では月額数万円から利用できる「クラウド型」のニーズが高まっています。ただし、クラウド型の場合、PCやネットワークまわりの初期設定をすべてクリニック側で対応する必要があり、ここにハードルを感じる先生が多いです。
そこで当社では、電子カルテ用のPCやプリンターの選定から、マイナンバー対応、ネットワーク構築まで一括でサポートしています。
ーー院内サーバー型とクラウド型では、ランニングコストにどのくらいの対比があるのか、詳しく教えてください。
一般的な目安として、受付、会計、処置室、二部屋の診察室、のそれぞれに1台ずつの合計5台を置くとします。すると、院内サーバー型の導入コストは300万円程度で、月々のランニングコストは3,4万円程度。
クラウド型の場合は、自前でPCなどをそろえる金額を含めて、導入コストは60万〜100万円。当社でおすすめしているメーカーを利用すれば、月額のランニングコストを2,3万円に抑えられて、院内サーバー型より1万円程度は安くできます。

ーー院内サーバ型に比べて、クラウド型は初期費用は3分の1に落とせて、月額ランニングコストは1万円程度安くできるということですね。院内サーバ型とクラウド型それぞれのメリット・デメリットも教えてください。
院内サーバー型は、何かしらのトラブルで外部とのネットワークが切断されても、院内だけでシステムを動かせます。セキュリティも院内サーバー型のほうが強固です。電子カルテは個人情報がシビアなので、セキュリティを重要視して院内サーバー型を選ぶ人もいます。歴史が長いので、さまざまな機能も付いています。
しかし、院内サーバー型は、導入時のメーカーに保守まで一貫して任せる場合が多く、月額ランニングコスト以外にも、保守契約料やシステムの更新費など、定期的な運用コストが発生します。また、院内サーバーのメーカーが指定するPCを入れる必要があり、PCの価格がスペックに見合っていない場合もあるのです。
であれば、導入費用を抑えつつ、自由にPCやシステムを選べるクラウド型のほうが、コスト・性能の両面でバランスの良い選択ができます。また、クラウド型はシステムバージョンアップや保守が自動化されていることが多く、運用コストも低いため、PCセットアップを自分でできるような若い世代の先生からの支持が増えています。
単なるDXだけではなく、細かい部分の業務効率化にもこだわる

ーー先生の年齢層によってはPC操作に得意不得意があり、サービス提案のしやすさにも関係してくると思います。今ご支援されている先生は、どれくらいの年齢層が多いのでしょうか?
当社の場合、30代後半から40代の先生が多いです。今はPCの操作が比較的得意な先生への支援が多いですが、これからは「しっかりとPCを導入して使いこなしたい」と思っている先生にも、当社のサービスを届けていきたいと考えています。
多くのクリニックの先生は、付き合いのある卸業者や電子カルテの会社にIT周りの相談をします。しかし当然、今利用している製品と同じメーカーのものを提案されるので、システムのスペックや費用対効果の変化を得られにくいというデメリットがあります。そうではなく、本当にそのクリニックにとって使いやすいものを提案してあげられる会社でありたいと考えています。
ーーこれまで手掛けたクリニックへのDX支援で、特に印象に残ったプロジェクトや成果について教えてください。
一番最初に新規開業の支援をさせていただいた、1日40〜60人くらいの患者が来院するクリニックがあります。一般的なクリニックでは、患者がそれくらいの人数であれば、スタッフは事務2人、看護師2人程度は必要です。しかし、なるべく手間が減るように提案したところ、事務1人、看護師1人、先生1人の少人数で業務が回る体制をつくることができました。多くのスタッフを雇った際の人件費に比べたら、だいぶ良い提案ができたと思っています。
また、普段から事務の業務が効率的になるように、プリンターなどの設置位置や、予約システムで得た患者情報が、そのまま電子カルテに反映されるような仕組みを構築するなど、細かい部分にもこだわって支援しています。

ーー般的な企業のバックオフィスのDXと比べて、クリニックのDXならではの課題や特徴はどのような点にあるとお考えですか?
医療の分野は、さまざまな法律が定められていて、IT導入の参入障壁が高いと思います。たとえば電子カルテの場合、MicrosoftのWordに患者の情報を記録しているだけでは、正式な診療録として認められません。すると、電子カルテのシステムをメーカーから購入する必要が出てきます。その場合、導入する電子カルテのメーカーと相性の良い予約・会計・問診システムなどを見つける必要があります。
このように医療業界の法律やIT周りのことを知っておかないと、効率化を提案することは困難です。さらに、厚労省が推進している「医療DX2030」のフェーズに合わせて、DX支援をしていく必要もあると考えています。
MEOやSEOなどのIT施策を代行

ーーDXの取り組みを具体的に進める中で、現場の先生やスタッフとの信頼関係はどのように築いていますか?
まずは謙虚に、そして求めてもらったことに対しては全力で一生懸命取り組みます。先生からの要望はもちろん、事務や看護師などの現場の皆さんが使いやすくなるように、できる限りコミュニケーションを取って、クリニック全体が良くなることを考えて提案しています。
ーー集患支援など、経営改善に直結する支援もされていますが、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?
最初は医療DXの支援をメインとしてサポートします。しかし、クリニックでは、院内の生産性だけでなく、患者からの認知度を上げることにも苦慮しています。そこで、診療で忙しくて手が足りていない先生から、集患の仕事を巻き取っています。
たとえばクリニックのGoogleプロフィールを整えて、MEO(マップ上で視認性を上げる施策)をします。他にも、ブログ記事の代筆をしてSEO対策をしたり、Google口コミを患者に気軽に書いてもらえるように、院内に口コミ投稿ページのQRコードを設置。患者の口コミに対しての返信内容の案出しもします。口コミに対しての施策をすることで、Web上での評価と視認性が上がって、結果的に患者が来てくれるようになります。
集患のためにWeb広告を出すときの、テキストや予算、地域ターゲティングを最適化したり、最近は患者と自動でやり取りできるようにLINE構築のお手伝いもしています。

ーー最後に、医療DXの支援をするうえで大切にしている価値観や、御社の今後のビジョンを教えてください。
利益優先で動くことはせず、「魂を売らない」ことを大切にしています。過去にわたしが勤めていた会社の電子カルテなどをクリニックに紹介して販売すれば、当社の利益にはなります。実際、私が勧めれば購入してくれる人もいると思います。
しかし、たとえ売れる見込みがあっても、その製品が本当にクリニックのためになるとは言い切れず、無理に勧めることもできません。そうではなく、本当に使い勝手が良くて、クリニックのためになるものをしっかり紹介するようにしています。
また、今後のビジョンとしては、「高度管理医療機器販売業許可」を取得しているので、電子カルテ周辺の機器や医療機器の販売もしていきたいと考えています。
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